【この物語はフィクションです】
今日もベンチに座る。星がキレイだ。静かなところで星を見るとなぜか心が洗われる気がしてすごくはまっている。
そういえば、この時間に最近ある大学生が僕と話をするためにここにやってくる。
いつも話の内容はバラバラだが、結構話がはずむ。
と言っていると、そいつがやってきた。今日は随分悩んでいる顔だな。
「あの〜、すみません。」
「どうしたんだ。今日はなんだか浮かない顔してるな。」
「僕、さいきんバイトを始めたんです。塾講師の、、、」
「ほう、そうか。いいじゃないか。」
「そうなんですけど、、、」
その大学生は何かを言いたげだ。いつもは特に何かを考えているふうではなかったが、今回は違った。
「なんだ、なにかあるんなら言っちまえ。」
「僕、塾で生徒に英語を教えているんですけど、ある生徒が授業中に、勉強って何でしているんですか?って聞かれて答えられなかったんです。」
「ほう。」
「確かに僕たちは小学生の時から勉強をしてるんですけど、よく考えたら、こんなん意味あるのかなって思って。
なんか勉強を教えているのに意味あるのかなって思ったらやる気がでないんですよ、、、」
「で、おれのところに来たと。」
「そうですね、、、」
たぶんこの青年は真面目なんだろうな。正義感とかは強い方だろう。でなかったらわざわざここまで質問しにはやってこない。
そんなの関係なく、勉強を教えていれば金は入るのだから。
「そうか。じゃあ勉強の本質の話をしよう。」
「勉強の本質?」
「そう。何事にも本質がある。スポーツにも、音楽にも、勉強にも、、、
その本質をみることが大事なんだ。」
青年は疑っているような、信じているような、何ともいえない表情をしていた。
「話を簡単にするためにゲームで例えてみよう。」
「ゲームですか?」
「そう。自分が敵と戦うゲームをイメージしてくれたらいい。
そして、学校で勉強している、国語、数学、英語、社会、理科などの科目を
武器として考える。例えば、国語というソード、数学というライフル、みたいな感じにね。」
「で、モンスターが問題ってことですか?」
「そういうこと! あるいはテストなんかもそうだよね。ボスと捉えたらいい。
本当は国語を勉強したり、数学を勉強したりすることで、今後の生活に必要なものを
学ぶことができるんだけど、今回はその話は無しにして、勉強の本質、という観点で話をしていくね。」
青年の、これから何をいいだすんだ、と言わんばかりの顔がおもしろい。話を続けるか。
「自分が、国語というソードを持っているとする。そして、そのソードを磨いていくことで切れ味が良くなり、
テストで問題たちを倒すことができる。それはすばらしいことだ。
でも、もし自分が裸だったらどうだろう?」
「裸?」
「何の力もないヒョロヒョロの裸とするんだ。
そうしたら国語というソードが無くなった時、
どうなると思う?」
「そりゃ、敵にあっさり倒されてしまいますね。」
「だよね。つまり、生身の力が強くないといけない。ヒョロヒョロなら、せっかくの武器を扱えなくなったりもするんじゃない?」
「そうですね。武器を使いこなせなくなって意味がなくなっちゃいますね。」
「そう。それがだから身体も強くないといけない。逆にその生身が強かったら、武器がない状態でもまだ戦える。」
「はい。」
「それが勉強の本質だよ。」
「えっ?」
青年は何を言っているのかサッパリなようだ。顔を曇らせている。まあ無理もないかな。
「つまり、今、君が教えている生徒がしている受験勉強は、その生身を強くする訓練でもあるってこと。」
「、、、」
「勉強をしていると、自分の嫌な部分、得意な部分がかならず出てくる。
例えば、反復が苦手、とか、やる気がすぐ無くなる、予定を立てることができない、
生活リズムを一定にする、自制する、目標達成までのプロセスを考える、
過去問を研究する、自分の苦手分野で点を取れるようにする、
または、自分は耳を使ったほうが覚えやすい、とか。
受験を通して、色々と工夫をして考えたり、ダメな部分と向き合って克服するってことは、
これからの人生にとって大きなプラスとなるんだ。
もちろん、自分の長所を知ることもプラスになる。」
「嫌な部分、、、」
「君だってあったんじゃない?地道な努力が苦手、とか、すぐ友達と遊んでしまって
結局勉強してなかった、とか。」
「はい、ありました。特に受験の最初の方はやばかったです。」
「うん、だれしもあるからそれを責める必要はないけれど、
大事なのはそれとどう向き合って、どう克服したかってこと。
そうすると、例え国語、数学、英語、みたいな武器がなくなっても
いつでも戦える肉体、メンタルが出来上がる。
受験というフィールドを離れても、大学というフィールド、
仕事場というフィールド、部活というフィールド、、、
そういったいろんなところで結果が出せる人になれる。
仕事でもたくさん覚えないといけないものが出てくる。それに対して
受験で生身が強い状態を作っておけば、そんなに難しいことではなくなってくるよね。」
「勉強に対してどう取り組んでいったか、が大事ってことか。」
「うん。勉強は勉強だけにとどまらないんだよ。
こんな話をするとね、じゃあ別に勉強じゃなくていいじゃないですか、
とかいう生徒もいるんだけど、
今やれないのに、これからやれるわけないよね。だって人生どこにいても
勉強はしないといけないんだからさ。」
青年の顔にはもう疑いの念はなくなっていた。それよりも僕の話から何かを感じてくれたようだ。
「ぼく、勉強って本当に意味ないと思ってたんですよね。でもそういう捉え方をすると
ほんと大事なんですね。だからスポーツで結果出している人って勉強もできる人が多いのか。」
「そう。彼らはスポーツを通してすでに困難を克服する術を身につけているからね。
それを勉強に応用しているだけだよ。」
月が明るい。青年の顔が照らされて最初より元気な顔になっているように感じた。
「あした、生徒にその話してきます!ゲームで例えるのもすごくわかりやすいし、使わしてもらえますね。」
そういって元気よく消えていった。
なんだかな、あの青年を見ていると昔の自分を思い出す。また話でもしよう。
それから1時間はベンチに座っていた。今日はいつもより夜風が気持ち良かった。
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