内容としては繋がってませんが、ストーリーとしては繋がっているので、
よければこちらも御覧ください⇨「疲労」と「疲労感」の違いとは?〜パフォーマンスを上げる大事な知識〜
【この物語はフィクションです】
またいやがる
あの男はまたベンチに座っていた。相変わらずいつもあの場所にいてる。そんなに暇なんだろうか。
今日こそはあいつの正体を暴いてやる、そう思ってまた男に近づいていった。
「お〜、またきたのか。」
男はなんだか嬉しそうだった。何を企んでいるのやら。とりあえず男の横に座ってみる。
「君さ〜、最近はまっているものとかない??」
「はまっているものですか?」
「そう、君見た目が大学生っぽいし、大学生ってどんなことをしているのかなと思ってね。」
「ぼくはクズですよ。ゲームばっかりしています。家帰ってはゲームして、授業を受けてる時もスマホでゲームして、、、」
だいたいそうだ。俺の友達の中で授業を聞いているやつなんてほとんどいやしない。寝ているかゲームしかないだろう。
「ゲームか。俺も好きだね、ゲームって結局人生と一緒だし。」
「ゲームと人生が一緒?」
昨日は疲労の話をしたかと思えば、次はゲームの話かよ。まあでも一応聞いてやるか。
「何でもそうなんだけど、特にゲームの場合は流れが決まっているよね。
例えば、最初は力が全くない主人公がいて、そこにある日突然誰かとの出会いがある。
そして新しい冒険に出発し、敵と戦い、ライバルが出てきたりして、
最後にボスが登場して倒したらめでたしめでたし。こんな感じでしょ?」
「まあ、ざっというとそんな感じですね。ポケモンとかもそうですよね。
ファイナルファンタジーも、モンスターハンターも。」
「そうそう、結局だいたいは抽象化をすると同じ感じになるんだよね。で、それを実際に人生にも当てはめたらいいんだよ。」
「人生に当てはめる?どうやってですか?」
「例えば、君が高校から大学に上がったのは、今までも未熟な自分から新しいレベルへと上がっていったからだよね。高校で経験値を増やしてレベルアップしたからこそ、大学に入れたわけだ。」
「確かに、言われてみればそういう見方はできるかもしれませんね。」
男の顔は輝いていた。まるで初めてカブトムシを見つけた小学生のようなワクワクした顔だ。大人でもこんな顔をするのだなと妙に感心した。
「人って完璧じゃないからさ、常に向上するところはあるんだよ。
そういう意味では全人類が未熟。
だから、運転免許証を取るのだって、ひとつの冒険なわけだし、
子供なら自転車を乗れるようになるのも、
冒険をクリアーして身についたスキルということになる。」
「常に冒険はあるってことか。」
「そう。でも世の中にはそういった冒険に飛び出さない人たちもいる。そういう人は進歩がないから経験値は上がらないし、レベルも変わらない。」
「挑戦をしない人ってことですね。」
「それ以外にも、例えば本を読むことだって立派な冒険だ。
今までとは知らない世界(知識)に出会っているわけだからね。
そこで何かを学び、日常で生かせれたならその冒険はクリアーしたということになる。
でもせっかく冒険に飛び込んだのに、
何も持って帰ってこなかったら意味ないよね。」
「その持って帰って来る、っていうのは必ずしも「物」じゃなくてもいいんですよね。例えば、経験とか、知識、情報とか。」
「するどい意見だね、その通り。で、ここからが大事なんだけど、レベルが上がっていくと経験値ってどうなる?」
「ん〜、なかなか上がらなくなります。」
「そう。例えば、ポケモンでレベル30なのに、いつまでもレベル5とかのポケモンを相手にしても経験値はほとんど変わらない。つまり何が言いたいかというと、1つは、レベルが上がれば、新しいステージに行かないといけない、ってことなんだ。」
「新しいステージ、、、?」
「うん。これを日常に例えると、君がもしいつまでも中学校にいてたらどうなる?」
「なんか、退屈ですね。たぶんテストも満点とって当たり前になりそう笑」
「でしょ。だからこそステージを上げていかないといけない。よく本で、違和感を感じたらそのグループから抜けだしなさい、っていうことを書いてあるけど、これも結局自分のレベルが上がってステージがふさわしくなくなったから違和感を覚えるんだよね。」
「なるほど、いつまでも同じところにいては経験値もほとんど増えないからか。」
「そうだね。あともう1つ。それはレベルアップをしていくとどうしても経験値が溜まりにくくなるってことなんだ。」
「というと、どういうことですか?」
「例えば、レベル5のモンスターがレベル8のモンスターを倒したとしよう。その時どうなると思う?」
「そうですね、たぶん一気にレベルが上がるんじゃないですか?」
「そそ、それでもしレベル10がレベル8を倒したらどうなるかな。」
「そりゃ、たぶん経験値が増えてもレベルは変わらないか、頑張ってレベル11くらいにしかならないんじゃないですか?」
「その通り!何が言いたいかというと、
レベルを上げていくごとに経験値やレベルは上がりづらくなるってこと。
でもそれに気づいていないと、せっかく経験値を上げているのに、
これはダメだ何も変わらない、といって今やっていることを投げ出してしまう。」
気がついたら完全にこの男のペースに巻きこまれていた。でも聞いてて悪くはない。一人暮らしの俺にとってはこんな話でも退屈凌ぎにはなる。
「あとは、すべてをイベントクエストと思えることかな。」
「えっ?どういうことですか?」
「ある人から誘いがあったとしよう。こんなところ行ってみないか、とか、こんな企画あるんだけどやってみない、とか。
そういった誘いをすべて自分のレベルを上げてくれるイベントクエストと思えるかどうか、が大事なんじゃないかな。
運がある人とか、ない人とかの話があるけれど、結局はそういった冒険を見つけた時に
レベルアップにつながるクエストだと思って行動するから結果が出て、
周りからすると運があるように見えるんだよね。」
男の話を聞いてはっとした。俺は運とかは落ちてくるものだと思っていた。そして成功している人は運が降ってきた人なんだと。
でも、それは間違いなのかもしれない。自分はこの男のいう「冒険」に出発すらしていない、、、
「さて、まだまだ話したいことはあるんだけど、、、」
と言いかけたその時、ブブブっと男の電話がなった。さっきまでの小学生みたいな顔はどこかに消え、真剣な大人の顔になっていた。
でも、この人本当に仕事なんかしているのだろうか。毎日ベンチに座っているだけじゃないか。そんな思いがどうしても頭をよぎる。
「急に用事ができちゃった。話の途中ですまないけど、また今度ゆっくり話でもしようか。」
そういって一瞬で消えていった。
また今日も機会を逃した。まだ名前すら聞いていない。でも、そんなことはどうでもよくなるくらい今日の話はすんごい腑に落ちた。
人生とゲームは同じ、か。俺はまだ家に閉じこもっているだけなのかもしれない。冒険すら始まっていない。
自分の中で熱いものを感じた。もっと日常は、ゲームみたいに楽しくできるんじゃないかなって。
俺の冒険がスタートした。
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