【この物語はフィクションです】
娘はもう高校生を迎えた。
ついさっきまで小学生だったように感じるのに、時が経つのは早い。
成長していくのは嬉しいのだが、最近娘とうまくいってない。
毎日すれ違いが起こっている。会話もあまりしなくなっていった。
今日は娘の情報を聞き出すために、通わせている塾に行く。
先生から少しでも何か聞いていないと落ち着かない。
だってあの子は私がいないとダメなのだから。
「それで、娘はどんな感じなのでしょうか?」
「最近少し成績が下がってきていますね、ただそれほど問題はないかなと。」
「やはりそうですか、何せ娘とあまり会話もしていない状態なので、
成績が落ちているのではないかなと思っていました。」
「会話をされていないのですか?」
「はい。遅れた反抗期なのでしょうか。
よく反発するようになって口も聞いてくれなくなってきたんです。
昔から勉強面の管理は私がしてきたのに、最近は何も話さない、話そうともしない。
だから成績が落ちているに違いないって思ったんです。」
「そうですか。でも娘さんはうまくやっていますよ。
この塾に入ってきた当時はどうなるかなと思いましたが、
だいぶとしっかりしてきて自己管理ができています。」
「いえいえ、うちの娘なんてまだまだなんです。
何にもできないし、サポートをしてあげないと無理なんですよ。」
「そんな、お母さん娘さんをもっと信じてあげてください。
立派に成長していますよ。」
「先生は昔からの娘を知らないからそんなことを言ってるんですよ。
私がいなかったら何もできない子供なんだから。いろいろ代わりにしてあげないと。」
娘は誰かがいないと何もできない。
わたしがちゃんと見てあげないと成長できない。
そこをこの先生はまだまだわかっていないんだわ。
「お言葉ですが、お母さん。そうやっていつも娘さんの世話を焼いてきたんですか?」
「はい、そうです。それが親の役目ですから。」
「そうですか。」
親には親のやるべきことがある。
それをわたしは忠実にしてきているだけ。
親とはそういう存在なのだから。
「お母さんは何か勘違いされているようですね。」
「何がですか??」
「娘さんは一人でも立派にやっていけます。もちろん
お母さんのサポートはいるでしょう。しかしお母さんが思っているほど
娘さんは小さくありません。あなたは世話を焼きたいんです、単純に。」
「はい?何をおっしゃっているのかわからないわ。
私が世話を焼きたい?娘を育てたいから世話しているんです!」
「いいえ、お母さんは育てたいから世話をしているのではありません。
充実感を感じたいから世話をしているんです。」
先生の言っていることがわからなかった。
何で先生に説教されないといけないの。
娘を思う気持ちは誰よりもあるのに。
「何をおっしゃっているのか全くわかりません。
何も知らないのに変なことを言わないでください。」
「そうですか。」
そう言って先生は一枚の紙を見せてきた。
「これは娘さんの予定表です。娘さんは勉強を必死に頑張りたいと
予定の組み方をいろんな先生に教わってそれが三日坊主にならないように、
と言って毎週私に提出しているんです。
もし娘さんがお母さんが思っているような感じなら、こんなことはできませんよ。」
紙を注意深く見る。それは確かに見慣れた娘の文字だった。
「こんなことを自分で、、、」
「娘さんはまだまだかもしれません。しかしお母さんが思っているほど
未熟でもありません。何もしないで見守っている、というのも
一つの育て方だと思いますよ。」
娘がこんなにきっちりやっているとは知らなかった。
認めたくないが、今までの自分の行動を振り返ってみるとはっと気づくことがあった。
「今思えば、勉強以外にも余計なことまでしていたのかもしれません。
本当はできるのに、私がやらないとやらないと、と思ってしまって、、、
でも娘はちゃんとしているんですよね。」
「はい。何もしないと悪くなるんじゃないか、と思ってしまうことがあるかもしれませんが、
それは違います。ちゃんとした育て方なんです。
世話を焼くと、確かに、自分がその子にとって必要な人なんだ、と感じれますが、
それはお母さんの欲求を満たしているだけであって娘さんのことは考えていないんです。」
先生の言葉が突き刺さる。
認めたくなくてもその言葉がさらに胸をえぐってくる感じがした。
「わかりました、先生。
もう少し娘に任せてみようと思います。」
「はい、よろしくお願いします。」
ただ見守ることも育て方の一つ。
そして自分の欲求のために世話を焼かない。
まだまだ親初心者だと感じた。
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