これは前回の続きになっています
《物語》ある大学生講師と生徒〜講師編①〜
<この物語はフィクションです>
前回の授業では結構手ごたえがあったように感じる。
このままいけるんじゃないか、と思っていた、しかし現実はそんなに甘くはなかったようだ。
あのよかった雰囲気はどこにいったのやら、神谷くんはまたいつも通り机に顔を伏せている。これでは振り出しに戻ったも同然だ。
「神谷くん、どうしたんよ。」
「、、、」
この前はぼくの質問に答えてくれたのに今日は一言も話さない。ここは粘るしかない。前と同じようにコミュニケーションを取ろうと努力した。
「昨日さ〜、実はおもしろいことがあってね、、、」
と話を続けるがまったくの無視。もうメンタルがやられそうだ。
塾講師は確かに楽しい。とくにやる気のある生徒に何かを教えるのはとてもやりがいがあるし、何かいいことをした気分になる。しかし、相手がまったくやる気がないとどうしても逃げ出したくなる。しんどさだけが溜まっていく、、、
こんな時はどうしたらいいんだろうか。やはりできることは数少ない。
相手と真剣に向き合うこと。相手の興味と勉強をつなげること。
これらしかない。ぼくは前回の授業で知った、神谷くんの好きなゲームを例えに使って授業を組み立てていこうと決めた。受験をゲームと同じように考えてみる。問題集を「レベル〜」と言い換えて各ページを解き終わるごとにレベルアップをしていくという仕組み。
簡単な問題を「雑魚キャラ」と言い換えたり、最後の難しい問題を「ラスボス」と呼んだり、、、いろんな工夫をしていった。
また、問題集の解説では分かりづらいと感じたから、解説を神谷くん専用に書き直したりもした。
どれだけ無視されても、ぼくは出来るだけ神谷くんのためになれたらいいなと必死だった。ただひたすら。残業したところでお金が出るわけでもない。それでも毎日神谷くんのことを考えていた。
やれることは全てやった。あとは神谷くん次第、、、
夏期講習の半分が過ぎた頃、神谷くんの中で小さく、でも確実な変化が起きていた。勉強を自分からし始めるようになったのだ。
あんなに嫌がってた勉強を自分からできるようになっていったのは僕にとって本当に嬉しいものだった。今までの努力が無駄ではなかったんだ。そう感じた時、もっと頑張りたいとおもうようになった。
もうここまできたらただ突っ走るしかなかった。
ほかのバイトももちろんある。お金がないと友達とも遊べないから、不器用なりに掛け持ちのバイトもこなしていく。決して裕福とはいえないぼくの家庭では、ぼくのバイトの稼ぎがとっても大事。
それはわかっている。わかっているけれど、それでも残業代がでないこの塾の仕事はやりがいがあった。お金以上のものがそこにはあった。(まあ、残業は自分で勝手にやっているだけだけど笑)
夏も終盤にさしかかった。あと少しで夏期講習が終わる。
神谷くんは少しづつであるけれど、勉強のスピードを早めていった。なにが一番効果的だったのかわからないけれど、それでも神谷くんは自分で動いてくれるようになった。
まったくできなかった文字の計算もできるようになり、ぼくの出した宿題も毎週やってきてくれるようになった。
ぼくは思った。これが無償の愛なんだなって。ぼくが神谷くんのために必死にやってきたこの2ヶ月、これはメリットなんかを度外視したものなんだって。
やめられない。教えるのって本当に楽しい。人が成長するのを見るのが大好きになった。よし!もっとがんばらないと。
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